真夏のイベントh2-icon-diary

このコラムも八回目。ときどき「読んでますよー。」と声をかけてもらえるようになった。ありがたい。反面、ネットの威力を思い知らされて、いささかドキリとする。肝心の感想はというと、身内は厳しく、院外の方々は総じて好意的だ。ともあれ、いろんな激励(?)を受けつつ、じょんのびの筆は進むのである。

それにしても、毎日暑いですねー。昼は殺人的日照りに打ちのめされ、夜は蒸し暑さに眠りを妨げられて、踏んだり蹴ったりである。もっとも、夏に弱い小生ならずとも、今年はオリンピック観戦で寝不足の輩が多いだろう。

オリンピックが真夏の祭典ならば、小生の周りでも真夏のイベントがあった。「NARS–J 2012」というのがそれである。今回はカルテの話題を離れ、そのレポートをしたいと思う。

小生の勤務する病院を含めて、上越市・糸魚川市内の四つの基幹型臨床研修病院で、「臨床研修上越糸魚川コンソーシアム」という連合体をつくり、さまざまな活動をしている(詳しくは、ホームページの臨床研修のページをご覧いただくか、病院までお問い合わせください)。NARS-Jはこのコンソーシアムが主宰する医学生と研修医のための体験型・参加型学習コースであり、Navigation for Residents and Students in Joetsu(どうってことないネーミングですみません)の略である。

今年はゲストに水戸協同病院の徳田安春先生、群星沖縄臨床研修センターから入江聰五郎先生、笹野幹雄先生をお招きすることができた。総合診療の分野でご高名な先生方である。諸先生のインストラクションのもとで、教育回診を行った。さらにコンソーシアム所属施設から指導医が集まり、消化管内視鏡、腹部エコー、ERでの循環器救急初期対応をテーマに、模擬診療(simulation laboratory)を行った。上越、糸魚川で研修する研修医と、新潟県内外からの医学生、さらに指導医たちも加わって、総勢20名強のコースであった。

教育回診といっても、ピンとこないかもしれない。そこでは、研修医が自分で担当した症例をプレゼンする。その資料を作成することからして、かけがえのない学習である。内容をチェックする指導医も、息が抜けない。一例一例丁寧に、主訴、病歴、review of system、身体所見を紡ぎ、問題リストにまとめあげる。

プレゼンを聞きながら、インストラクターの先生方は研修医や学生に質問を投げかける。その回答を考える作業を積み重ねながら、その症例の病態(病名を当てるのではなく、体の中でどのようなことが起きているのか)を見つけ出すのである。検査所見に頼らない、臨床推論と言ってもよい。この力を高めることこそ、初期臨床研修の大目標である。したがって、研修医にとっては、このうえない学習機会であると言うべきであろう。

はじめ彼らは質問にほとんど答えられない。「えーい、情けない」と言いたいところであるが、言えない。指導医たちだって答えられないのだから(たとえば悪寒と悪寒戦慄の違い、わかりますか)。

しかし、時間がたつにつれて、彼らの重い口が開き始める。去年一年生のときは「えーっと」としか言えなかったQ太郎もP子も、今年はぼそぼそと自分なりの答えを言う。半分くらいは的を得ている。いいぞ、っと思わず心の中で応援してしまう(このあたりはオリンピックのノリである。父親ですね、私は(笑))。彼らにつられて、今年初参加のR子も積極的に質問をする。すると隣で汗を拭いていたS男もボソっとしゃべりはじめる。もちろん、他の施設からの研修医も、学生も、活発に意見を交わしている。プレゼンのT嬢の口も滑らかになる。その調子だ、みんな。

二時間も経って回診が終わる頃には、彼らの表情が高揚感に包まれているのがわかる。彼らのスイッチをオンにしてくれたことを、インストラクターの先生方に感謝する。と同時に、質問の回答がわからずにいた自分、平素の研修で彼らに同じような動機づけができずにいる自分を振り返り、指導医たちはいささか複雑な心境になるのである。

ともあれ、今年のNARS-Jも、ネーミングはともかく、内容は非常に濃密なものであった。来年の夏はさらにバージョンアップさせて(ひょっとしたら春頃にも?)、また開催したいと思っておりますので、どうぞ、全国の学生諸君、上越にお越しください。オリンピックと同様に、参加すること、そしてそこでディスカッションし、体験することに意義があるのだ。お待ちしていますよ!!

ちなみに、この夏のイベント以降、明らかに当院研修医たちの目つきが変わった。嬉しいことである。今もS男から「II音肺動脈成分が亢進しているので、右心不全です。診てください。」とのピッチが鳴った。思い切り空振りであったが、その意気やよし。小生も新しい教科書を買って、勉強し直そうかな。

 
じょんのび先生へのご意見や・お問い合わせはコチラ