カルテを書こう:その3h2-icon-diary

もう八月も終わりだというのに、残暑が厳しい日々である。皆さんは夏バテなどせずご活躍でしょうか。

小生はといえば、NARS-J 2012のあと(前回のコラムをご参照あれ)、いっそう身体所見やバイタルサインに注意を払うようになった。患者さんに異常所見(たとえばギャロップが聞こえるとか)があると、すかさず研修医に連絡して診察させるようにしている。今も救急外来に頸静脈が怒張して、脈拍に合わせて拍動する(すなわち右房圧の上昇と三尖弁閉鎖不全がある、ということですよ)患者さんが来たので、実質研修医長のT子のピッチに連絡したところである。「本当ですか!わかりました!」弾んだ声が返ってくるのが嬉しい。

加えて一念発起し、最新版のハリソン内科学を買い込んだ。研修医に見栄を張って英語版にしたので、これからきっと苦労するでしょう(笑)。ともあれ、学生さんや研修医とふれあいながら、指導医もまたactivateされるのである。「教えることは学ぶこと」ですから。

さて、前回休んだカルテの話の続きである。

データーベースができたら、そこから患者さんの問題点を列挙する。「胸痛」「呼吸困難」「コントロール不十分な糖尿病」「独居」・・・・といった具合である。それぞれの問題点ごとに、患者さんの主観的訴え(subject:S)、客観的な身体所見や検査所見(object:O)、自分の評価や解釈(assessment:A)、今後の計画(plan:P)ごとに記載をする。Planには今後の診断確定のプラン(diagnostic plan)、治療方針(therapeutic plan)、患者教育の計画(educational plan)がある。これを書き終て、初期評価と入院時計画が終了する。患者さんが入院したら、容態が変化しないうちに速やかにここまでをまとめなければならない。

ところが、これが難しい。情報の集め方やその解釈のしかた、何を問題点としてリストアップするかによって、まるで違ったものが出来上がってしまうのである。

背が高い、首が長い、黄色い、茶色の模様がある。こう書けば、キリンを連想することはさほど難しくないだろう。しかし、同じキリンの特性であっても、四足、尻尾、草食、面長と書いたのでは、キリンが馬や牛になってしまう。
データベースの中の、どの情報が鍵なのか。重要な情報がどのように関連を持って、患者さんの病状を形作っているのか。それを考えることを臨床推論と呼ぶのだと思う。臨床推論が病名にまで昇華すれば診断である。

問題リストや初期評価・計画を読めば、そのカルテを書いた医師がどんな臨床推論をしたかがわかる。病態の本質を見ぬく推論が出きれいれば、病状は改善する。もちろん、逆もある。この推論の力こそ、医者の力量のきわめて本質的な部分なのである。

よい推論をするには、病態生理についての知識が必要である。経験がきわめて大切であることは、言うまでもない。指導医から呼ばれたら、あるいは研修医仲間から異常所見のある患者さんの話を聞いたら、手間を惜しまずすぐに走ろう。走って診たことを教科書で確かめよう。勉強はそうやってするものだ。

もう一つ重要なことは、自分の担当の患者さんのカルテを、データベースから身体所見、問題リスト、初期評価・計画に至るまで、きちんと書く習慣を身に着けることである。正しい臨床推論をするには、考え方の道筋が必要である。君たちの頭の中に、臨床推論のためのOSをインストールしなければならないのである。近道はない。しかし王道はある。たくさん患者さんを診て、面倒くさがらずに、毎回きちんとカルテを書くことである。書くことは頭を耕すことであり、考えることそのものでもあるのだから。

 
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