医師は、病める人の尊厳を守り、医療の提供と公衆衛生の向上に寄与する職業の重大性を深く認識し、医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)及び医師としての使命の遂行に必要な資質・能力を身に付けなくてはならない。医師としての基盤形成の段階にある研修医は、基本的価値観を自らのものとし、基本的診療業務ができるレベルの資質・能力を修得する。
このような考え方に立ち、本プログラムの到達目標を次々ページ以降のように定める。
これらは平成30年7月3日付の「医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について 別添」に示された到達目標に基づくものであるが、ここに呈示されたものをminimum requirementsと捉えて、さらに上越総合病院臨床研修プログラムとして重視する若干の項目を加えて作成されている。
次ページ以降に示された到達目標は、縦に2列の構成で表示されている。左側の列は上記別添に示された到達目標、すなわち
を、大項目の目標として示し、そこに到達するために備えるべき基本的価値観や修得すべき資質・能力、修得すべきコンピテンシーをいわば中項目の目標として①、②…のように示した。
これらの目標に到達することは、「上越総合病院臨床研修の理念」の実現のために欠かせないものである。また、これらの目標は、臨床研修前の卒前教育や、臨床研修後の専門研修、さらにはその後のキャリア形成過程の中で、一貫してその修得と質の向上を求められる課題でもある。
別掲の臨床研修の到達目標を達成するための方略として、以下のことがらを定める。
これらの方略を実践し、その過程で繰りかえし形成的評価を受けてゆくことで、研修医はおのずからその目標達成に向けて成長してゆくことが可能になる(評価の詳細については、別に示す)。
これらは平成30年7月3日付の「医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について 別添」に準拠するものであり、基本的にはどのプログラムでも同様の内容であるが、本プログラムでは、研修に関わるスタッフが総力を挙げて、その実施を支援するものである。
研修期間は原則として2年間以上とする。本プログラムでは臨床研修協力施設と協同して臨床研修が行われるが、原則として1年以上は基幹型臨床研修病院である上越総合病院で研修を行う。なお、地域医療等における研修期間を、12週を上限として、基幹型臨床研修病院で研修を行ったものとみなすことができる。
ある診療科をブロック研修しながら、同時に他の分野の研修を特定の期間、一定の頻度によって行うものを並行研修と呼ぶ。例えばどの診療科をローテートしていても毎週月曜は救急に充てる、そのときローテートしている診療科に関わらず、毎週火曜の午前中は一般外来研修を行う、といった場合である。
このように、並行研修が可能なのは、救急と一般外来診療である。本プログラムではいずれも原則としてブロック研修を行うこととしているが、並行研修も可能である。ただしその場合、以下のルールが適用される。
12週間の必修期間のうち、最低4週間はブロック研修を行わなければならない。そのうえで残りの8週間を並行研修で行うことができる。
この場合、午前、午後の終日を救急研修に充てた場合1日の研修、午前中だけ、もしくは午後だけの場合は0.5日と換算される。
また、当該並行研修と同時にブロック研修を行っている診療科の研修への影響を最小限にするため、原則として並行研修は週1日までとする。
たとえば救急並行研修を8週間分行うとした場合、8週間×5日(1週間の勤務を月-金の5日とする)=40日 の研修が必要であり、週1日であれば、40週間並行研修が行われなければならない。
なお、救急の並行研修を行う場合、その日数は同時にローテート研修している必修診療科の研修期間に含めることはできない(ダブルカウントできない)。そのため、当該必修診療科の研修日数を別途確保する必要がある。例えば内科のローテート中に週1日、24週救急の並行研修を行った場合、24日分内科研修の日数を別に確保しなければならない。
なお、気管挿管を含む気道管理及び呼吸管理、急性期の輸液・輸血療法、並びに血行動態管理法についての研修を含むことを条件に、麻酔科における研修期間を、4週を上限として、救急の研修期間とすることができる。
一般外来研修は4週間が必修である。ブロック研修で1日午前・午後すべてを一般外来に充てた場合、4週間×5日(1週間の勤務を月-金の5日とする)=20日分の研修が必要である。午前中のみ、あるいは午後のみの外来を1単位(1コマ)とすれば、20日×2=40単位の研修が必要なことになる。
当該並行研修と同時にブロック研修を行っている診療科の研修への影響を最小限にするため、原則として並行研修は週1日までとする。
20日分、すなわち40単位の研修を、週1回午前のみの並行研修で行うとすると、40単位÷1=40日、40日÷1(日/週)=40週必要である。
一般外来研修の並行研修の日数を、同時にローテート研修している必修診療科の研修期間に含めることができる(ダブルカウントできる)のは、以下の場合のみである。
これ以外はダブルカウントができないので、同時にブロック研修している診療科が必修分野である場合は、並行研修した一般外来研修の分の日数を別途確保する必要がある。例えば小児科のローテート中に週1単位(週1日午前のみ)、4週間の一般内科外来の並行研修を行った場合、0.5日/週×4週=2日分、小児科研修の日数を別に確保しなければならない。
一方で、小児科のローテート中に週1単位(週1日午前のみ)、4週間の一般小児科外来の並行研修を行った場合は、ダブルカウントが可能なので、この必要はない。同様に、内科のブロック研修中に週1単位(週1日午前のみ)の一般外来研修を行った場合もダブルカウントが不要である。ただし24週間これを行っても24単位にすぎず、別途16単位の一般外来の機会を確保する必要がある。週2単位(たとえば週2日午前のみ)の一般外来研修に増やせば24週×2日/週×1単位/日=48単位の研修が可能となるが、おそらく同時にブロック研修している内科各分野の研修に影響が出てくる懸念が生じる。
一般外来研修として想定されているのは、症候・病態について適切な臨床推論プロセスを経て解決に導き、頻度の高い慢性疾患の継続診療を行うために、特定の症候や疾病に偏ることなく、原則として初期患者の診療及び慢性疾患患者の継続診療を含む研修を行うものであり、総合診療、一般内科、一般外科、小児科、地域医療等における研修がその場に該当する。特定の症候や疾病のみを診察する専門外来や、慢性疾患患者の継続診療を行わない救急外来、予防接種や健診・検診などの特定の診療のみを目的とした外来は含まれない。
このように考えると、本プログラムでは総合診療科6週間を独自に必修とし、週5日毎日午前に一般外来研修を行うことを基本としている。これで6週間×1単位/日×5日/週=30単位の外来研修の機会がある。不足分は地域医療で補うことを想定している。総合診療科は省令で定める必修診療科ではないので、研修日数に関する問題は生じない。地域医療研修は省令で定める必修診療科であるが、その研修内容における一般外来診療の役割が大きいため、並行研修は週1回という原則に縛られない。在宅医療、慢性期・回復期病棟研修、地域包括ケアなどの研修機会が確保されれば、1週間に複数回の外来診療も可能である。
外来又は病棟において、下記の症候を呈する患者について、病歴、身体所見、簡単な検査所見に基づく臨床推論と、病態を考慮した初期対応を行う。
ショック、体重減少・るい痩、発疹、黄疸、発熱、もの忘れ、頭痛、めまい、意識障害・失神、けいれん発作、視力障害、胸痛、心停止、呼吸困難、吐血・喀血、下血・血便、嘔気・嘔吐、腹痛、便通異常(下痢・便秘)、熱傷・外傷、腰・背部痛、関節痛、運動麻痺・筋力低下、排尿障害(尿失禁・排尿困難)、興奮・せん妄、抑うつ、成長・発達の障害、妊娠・出産、終末期の症候(29症候)
外来又は病棟において、下記の疾病・病態を有する患者の診療にあたる。
脳血管障害、認知症、急性冠症候群、心不全、大動脈瘤、高血圧、肺癌、肺炎、急性上気道炎、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性胃腸炎、胃癌、消化性潰瘍、肝炎・肝硬変、胆石症、大腸癌、腎盂腎炎、尿路結石、腎不全、高エネルギー外傷・骨折、糖尿病、脂質異常症、うつ病、統合失調症、依存症(ニコチン・アルコール・薬物・病的賭博)(26疾病・病態)
※経験すべき症候及び経験すべき疾病・病態の研修を行ったことの確認は、日常業務において作成する病歴要約に基づくこととし、病歴、身体所見、検査所見、アセスメント、プラン(診断、治療、教育)、考察等を含むこと。
「医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について」(平成15年6月12日、一部改正平成30年7月3日)に基づいて、本プログラムにおける評価について以下のように定める。
研修期間中の評価は、形成的評価により行うことが重要であり、研修医ごとの研修内容を改善することを主な目的とすること。
具体的には、分野ごとの研修終了の際に、指導医や指導者(医師以外の医療職の代表。看護師を含むことが望ましい)が、研修医評価票Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ(様式18-20、別掲)と、必要に応じて当院独自の評価票を用いて、到達目標の達成度を評価し、これら評価票は研修管理委員会で保管する。
上記評価の結果や、PG-EPOCなどの評価システムの記載に基づいて、臨床研修プログラム委員会は研修医の目標達成状況や履修状況を確認し、形成的評価のための合議を行う。この際議事録を残し、研修管理委員会で保管する。
上記の議事録の内容をふまえて、少なくとも年2回、プログラム責任者・研修管理委員会委員が、研修医に対して形成的評価(フィードバック)を行う。フィードバックした内容については、記録を作成し、研修管理委員会に保管する。
これらの過程で行われた価値判断や評価票、議事録、記録などは、臨床研修管理委員会などの機会に定期的に、あるいは随時、研修医や指導医、指導者間で共有され、研修医が修了基準に不足している部分を研修できるよう配慮するとともに、効果的な研修につなげるように役立てられる。
研修期間終了時の評価は、総括的評価により行い、研修医ごとの臨床研修修了の判断を行うことをその目的とすること。
研修医の研修期間の終了に際し、プログラム責任者は、研修管理委員会に対して研修医ごとの臨床研修の目標の達成状況を、研修医評価票Ⅰ、Ⅱ、Ⅲを勘案して作成される 臨床研修の目標の達成度判定票(様式21、別掲)を用いて報告し、その報告に基づき、研修管理委員会は研修の修了判定の可否についての評価を行うこと。
評価は、研修実施期間の評価、臨床研修の目標等の達成度の評価及び臨床医としての適性の評価のそれぞれについて行い、すべての基準が満たされたときに修了と認めるものであること。
なお、最終的な認定に当たっては、相対評価ではなく、絶対評価を用いるものであること。
臨床研修においては、研修医に対する評価のみではなく、研修の質を高め、プログラムの改善に向けた評価が行われなければならない。
具体的には、指導医の資質の向上に資するために、分野ごとの研修終了の際に、研修医と指導者による、指導医の指導状況についての評価を行う。また、各診療科のプログラムの改善に資するために、分野ごとの研修終了の際に、研修医による振り返り評価を行う。さらに、研修プログラム全般の質の向上にむけて、少なくとも年1回、研修医による研修プログラム・研修施設に対する評価を行う。
各科の研修プログラム詳細は、下記からダウンロードできます。
当院が協力型病院となっている臨床研修プログラム所属のたすきがけ研修医については、所属するプログラムの臨床研修の基本方針に従って当院での研修計画を立案します。