新潟県厚生農業協同組合連合会 上越総合病院

病院長挨拶

病院長挨拶(2019年4月)

病院長 篭島 充

 新年度となり、今年も新入職員を迎える時期になりました。季節外れの雪が降り、平成の次の元号も発表され、いささか落ちつかない年度替わりでしたが、時が来れば桜が咲き誇り、病院の周りで、あるいは市内のあちこちで、春爛漫の景色に心が弾みます。

 日頃は上越総合病院に多くのご理解とご協力を賜り、ありがとうございます。この場を借りて、あらためて御礼を申し上げます。

 さて、医療を取り巻く環境は、天候以上に慌ただしいようで、その変化はきわめて激しく、まるで春の嵐といったところでしょうか。

 これまでもこの欄で地域包括ケア(医療・介護・すまいを一体化させた地域づくり)や、人口減少・高齢化に伴う問題(医療を必要とするご高齢の方の増加、医療現場で働く若者の減少など)について話題にしてきましたが、ここへきて働き方改革と地方の医師不足が再び大きな話題になっています。

 報道によれば、今後医師の時間外労働時間の上限を、月100時間、年960時間(地域医療の確保や研修医など技能向上推進のために必要がある場合は年1860時間)とする方向に国の方針が決まりつつあります。これらは通常の時間外労働基準よりもはるかに長く、過労死を生じうる水準であるという批判もあるようです。それにもかかわらずこの基準が容認されようとしているのは、医師がこの基準を越える時間外労働をしており、それが地域の医療を支えているという現実があるからです。

 たとえば、当直の日は病院に泊まり、急患や時間外に受診する患者さまの診療に追われてほとんど眠ることができません。翌日はそのまま普通の診療を夕方まで続けるのです。当直以外にも、急患が来れば夜中であろうと病院に駆けつけ、翌日も通常どおり診療をします。そうしないと外来、手術、検査などの仕事がやりくりできないからです。医師の健康を守ることはもちろん大切ですが、医師の時間外労働を一律に規制すると、このような時間外診療を制限せざるを得ず、地域の皆様に提供できる診療に大きな影響が出るのです。

 医師の数を増やせば、理屈の上では医師の健康管理をしながら、地域医療への影響を避けることができます。しかしながら、今後人口が減ってゆく中、医師数が増えることはおそらくありません。そうすると、救急などの時間外診療を行う病院に医師を集めればよい(集約化)という発想になります。それは一方で、人口が少なく時間外診療の機会の少ない、いわば地方の中小病院の医者が減ってい行くという事態を招きます。先般発表の厚労省の資料によれば、新潟県は全国でも最も医師が不足している都道府県の一つです。上越糸魚川地域も、人口当たりの医師数が全国二次医療圏のうち下位三分の一くらいに位置しており、すでに集約化の影響を受けています。

 「余裕を持って働き方改革に取り組める医療機関はない」と言われる現状の中で、私たちはこの地域の医療や皆様の健康を守ってゆかなければなりません。職員一同、そのために一所懸命努めてゆく所存です。そのためにはたくさん工夫をしたり、従来のやり方を改めたりする必要がありますし、病院の努力だけでは対応が困難な場面もあるでしょう。地域の皆様にはこのような背景をぜひご理解のうえ、ご協力をいただくとともに、いろいろとお智恵を拝借できれば幸いに存じます。

 しき嶋のやまとごごころを人とはば朝日ににほう山ざくら花-宣長の歌を持ち出すまでもなく、桜が美しいのは、常に変わらぬ姿でそこに在り、花開き、散ってゆくという、与えられた営みを続けているからでしょう。医療もそうありたいものです。今後とも上越総合病院にご支援、ご指導を賜りますよう、何卒よろしくお願いを申し上げます。

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