新潟県厚生農業協同組合連合会 上越総合病院

病院長挨拶

年頭のご挨拶(2025年1月)

病院長 篭島 充

 あけましておめでとうございます。いつも上越総合病院にあたたかいご理解とご支援を賜りまして、ありがとうございます。

 昨年は元旦から能登半島地震に見舞われ、上越も被害を受けました。ウクライナやガザの戦禍も止む兆しが見えず、まさに龍が暴れまわったような年でした。

 医療もまた、激しい逆風にさらされています。現在、全国の数多くの病院が赤字に苦しんでいます。コロナ禍で減った患者数が元に戻らないことが大きな理由です。理由はよくわかりませんが、医療機関を受診しなくても何とかなることを国民が学んだのかもしれません。人口減少などで患者さんの数も減っているのかもしれません。

 さらに、昨年4月の診療報酬改定が予想以上に厳しいものでした。診療報酬というのは医療を行った対価として医療機関が受け取る報酬のことですが、医療行為ごとにその金額が公的に定められていて、2年ごとに改定されます。昨年4月の改定では、病院の収入が大きく減りました。国家予算に余裕がなく、人口減少で税収も減ってゆくからでしょうか、医療費を抑制したいという国の強い意思を感じざるを得ません。これもまた、病院の経営悪化の大きな要因になっています。

 このような経緯があり、わたくしどもの病院も、経営母体である新潟県厚生連も、収支が急速に悪化し、赤字が膨らみました。すでに報道でご存じの方も多いことと思います。ご心配をおかけしておりますことを、心からおわび申し上げます。

 一方で明確に申し上げておきたいのは、上越総合病院や新潟県厚生連が怠けてきたとか、経営努力をしてこなかったとかいうわけでは決してないということです。

 これまで当院は地域のニーズに応えるべく、診療機能の拡充に努めてきました。今では急性期病院として幅広い専門的治療が可能な機能を有しています。一方で総合診療部門を充実させ、ご高齢の患者さんなど、多数の問題を有する複雑な事例について、包括的な診療をする体制も強化してきました。また、断らない救急を実践し、最近は糸魚川地域や妙高地域からの要請も受け入れ、今年度は救急車受入れ実績が4000台に達する見込みです。

 さらに、厚生連病院として、地域に向き合い、地域の課題に対応するという立場を貫いてきました。たとえば、コロナ対応では、重症患者の受け入れはもちろん、発熱外来や保健所のPCR検査などで、圏域で最大規模の実績をあげました。また、新潟労災病院の透析中止に伴い、当院に患者さんとスタッフを受け入れ、透析体制を維持しました。

 昨年からは、紹介患者重点医療機関に指定されたことを機に、患者サポートセンターの機能を拡充し、病院間の連携、病院と診療所の連携を積極的に進め、患者さんの紹介のみならず、医師の派遣も含めて、能動的に他施設との協働をはかってまいりました。

 このような取り組みの結果として、当院の収入は確実に増えています。しかしながら、一方では費用もかさみました。現状の患者数や診療報酬のもとでは、その分の経費をまかないきれなくなってしまったのです。抗いがたい、大きなうねりのようなものを感じます。

 このままでは確実に、どの病院も立ち行かなくなってしまいます。行政にも高額の赤字を補填し続ける余力はないでしょう。

 では、どうしたらよいのか。わたしが考えるに、地域医療構想と呼ばれる大胆な医療再編だけが、その答ではないでしょうか。

 これまでもここで繰り返しお伝えしてまいりましたが、上越地域医療構想調整会議という場で、そのことが話し合われています。新潟労災病院は令和7年度末に閉院します。その診療機能を他の病院で分担して受け入れることになり、当院は整形外科を中心とする手術とそれに付随する急性期医療、ならびに救急医療を担います。透析については、すでに述べたとおりです。

 そして、根本的な再編に向けた話し合いが、いよいよ始まります。なぜなら、当圏域ではすでに次のようなことが起こっていて、今までの診療が続けられなくなっているからです。少子高齢化で医療人材の確保が難しい。経営悪化で医療機器の更新が困難である。医療の高度化に追いつけず、全国水準から後れを取っている分野がある。医師の働き方改革で時間外労働に上限規制がかかり、従来のような医師の長時間労働に頼った診療ができなくなってしまった。ここに今回の経営危機が大きく、重くのしかかり、待ったなしで地域医療構想を進めなければならない状況に追い込まれているのです。

 だからこそ、地域医療構想はこれから加速するに違いありません。上越糸魚川二次医療圏では、現在ある病院の数も、規模も、名前も、役割も、大きく変わるはずです。高度な検査や手術、救急は、一つの基幹病院に集約されるでしょう。その基幹病院で急性期の治療を終えた患者さんを受け入れて、その後の経過観察やリハビリなどをする病院が、いくつかできるでしょう。診療所に変わる病院も出てくるでしょう。そして、これらの施設の運営には、県も、市も、厚生連も、関係者が協力して関わる必要があるでしょう。

 患者さんは入院から退院まで同じ病院にいるのではなく、病状や入院してからの時間経過に応じて、入院先や通院先を変えて移動することになるでしょう。あたかも地域全体が一つの病院になるようなものです。全国どこでも、これが標準になるでしょう。我が国の医療は、そういう形でないと維持できないときを迎えてしまったのです。

 わたしたち上越総合病院の職員は、この再編が実現するまでの間は、関係機関と協力しながら、全力で今の診療機能を維持します。その一方で、地域医療構想の議論をリードし、この地域の医療を守り、みなさんに希望をもっていただけるような将来像の実現に努めます。再編が実現したのちには、職員一人一人がそれぞれに期待される場で、地域に求められる役割に真摯に取り組み続けます。

 世の中は猛スピードで変わっています。これまでの常識が通用しない時代です。大切なことは、柔らかい頭で智慧を絞り、関係者だけではなく、住民のみなさんも含めて、地域全体が協力してゆくことです。そうしなければならないのです。

去年(こぞ)今年 貫く棒の如きもの

高浜虚子

 ―古い年が去り、新年を迎えると、去った年が遠い昔のように感じられる。でも、時は正月の祝いとは関係なく静かに過ぎてゆくだけ。一本の棒で貫かれたような一続きの流れに過ぎない―

 本来はそういう意味でしょう。でも、わたしは別の解釈をしたい。時がどんなに激しく流れても、一本の棒のように、変わらぬ地域医療への想いを持ち続けたい。そう思います。

 上越総合病院は地域に根差した病院として、ここに住まうお一人お一人の人生を大切にしながら、その先頭に立ってゆく覚悟です。本年も上越総合病院をどうかよろしくお願い申し上げます。

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