新潟県厚生農業協同組合連合会 上越総合病院

初期臨床研修

2016年05月06日

第46回 多職種教育のすすめ

一年生が研修を始めて一か月がたちました。去年の自分の姿を思い出しながら二年生が寄り添ってくれている姿は、とても微笑ましいです。ありがとう。ベテラン指導医は敷居が高いけれど、先輩研修医には質問もしやすいもの。屋根瓦研修のありがたさです。

さて、研修を始めてみて、あらためて医療がチームで行われていることを実感している人も多いのではないしょうか。たとえば患者さんが発熱した場合を考えてみましょう。臨床推論を助けてくれる指導医のほかに、指示を受けてくれる看護師さん、検体検査をしてくれる検査技師さん、X線写真を撮ってくれる放射線技師さん、薬を準備してくれる薬剤師さん、薬を病棟に届けてくれる助手さん、点滴をしてくれる看護師さん、一連の処置をレセプトに反映させてくれる事務員といった具合です。もちろんさまざまな場面でほかの職種のスタッフがかかわることもあります。これだけのスタッフにバトンが受け継がれて、初めて医療行為が完結するのです。

では、多職種からなる医療チームが円滑に機能するには(よいチームワークを実現するには)、何が必要でしょう。まず、お互いに相手の考えていること、やろうとしていることを十分に理解しなければなりません。そのために必要なのはコミュニケーションですね。

では、良いコミュニケーションのためには何が必要でしょう。自分の考えを言葉にして伝えること、相手の言葉を理解しながらよく聞くこと、確認できるように記録をすること。これは当然のことです(とはいえ、実行し続けるのは簡単ではありませんが)。でも、それだけで十分といえるでしょうか。

みなさんが悩みを抱えていて、Aさん、Bさんの二人に相談をしたとします。Aさんは誰が聞いても頷ける正論をあなたに助言しました。でも、あなたの話をあまり聞いてくれないし、あなたの気持ちを理解しようとする雰囲気がありません。Bさんは「私はこう思うけど、でも難しいね」と、Aさんほど頼りになりません。でも、あなたの話をよく聞いてくれて、あなたがどういう人なのか、なぜ悩んでいるのかを理解しようとしています。みなさんはAさん、Bさんのどちらに相談をしたいですか。Bさんと答える人が多いのではないでしょうか。

AさんとBさんの違いは、悩んでいるあなたに対する関心、共感の有無です。人は自分に寄り添い、理解してくれる人に心を開くのです。これはチームワークについても同じこと。チームのメンバーたちは、自分たちの業務や苦労を知っている人、知ろうとしてくれる人を信頼します。これから医師として医療チームの中心となる皆さんにとって、ほかの職種のスタッフの気持ちを知ることは、とても大切なことなのです。

そのために一番良い方法は、職種の違いを越えて共同作業を体験することです。その目的で、昨今多職種教育が注目されています。学生時代から、あるいは就職して間もない時期に、他職種のスタッフと一緒に共通のテーマについてディスカッションをしたり、互いの業務を体験するものです。職種ごとの考え方の違いに基づく多様な意見を聞くことで相互理解が深まり、どの職種の仕事も大変であることを実感します。そんな中から共感をはぐぐみ、相互理解が深まり、コミュニケーションや連携が円滑になる、ということです。

このように考えると、コミュニケーションとはつまるところ思いやりの気持ちを持つことなのかもしれません。皆さんがこの4月、オリエンテーションに続いて新人看護師さんと体位交換や排泄介助、点滴などの研修をしたのも、まさにこの多職種教育の一環だったわけです。今回学んだことを、これからの皆さんのプロフェッショナルとしてのふるまいに活かしてほしい、そんなふうに思います。

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