2016年08月08日
第47回 指導医の本音(その1)
今日も青空が高く、突き抜けた陽射しがアスファルトに照りかえります。夏本番です。みなさん、お元気ですか。
今日は先月末に開催された、第1回上越総合病院指導医講習会の話題です。臨床研修病院で指導医として研修医を指導するためには、指導医資格を手にする必要があります。医師としての臨床経験が7年以上であることに加えて、厚生労働省が認める指導医講習会を受講していることがその要件です。
新潟県内ではこれまで年1回、新潟市内で指導医講習会が開催されてきました。とはいえ一回の講習会の受講者数は50名までという制限があることや、合宿形式で16時間以上の講習を受けなければならない(!)という規程もあって、指導医講習会を受けることができずにいる上級医もたくさんいます。わが病院にもそのような先生方がおられるので、いささかハードルが高いけれども、思い切って今回当地で開催することにしたのです。
講習会には主として新潟県、一部富山県や長野県から、合計36名の先生方が受講に来てくれました。30歳代から60歳代、内科系から外科系まで、さまざまな経歴の錚々たる顔ぶれです。講習をファシリテートするタスクフォースの先生方も、全国津々浦々から集まって下さいました。
講習会の内容は、厚労省の指針によってほぼ決められています。研修プログラム立案に関すること(研修目標、方略、評価)がメインテーマで、そのほか効果的な指導法について、臨床研修制度についてといった内容について、ワークショップ形式で会は進められてゆきます。「教わる」のではなく、参加者が皆で知恵をしぼって考える。みなさんの日々に研修に近い感じです。二日間缶詰になって、脳の普段使わない部分を使って、指導医の面々が唸りながら額に汗して考え、討論をします。みなさんに見てもらいたかったです。
さて、今日このコラムで書きたいのは、講習会終了後のアンケートや、休憩時間の会話に垣間見ることのできる、指導医の本音です。
どこの指導医講習会でも必ず出てくるのは、「今の研修医は恵まれている」という意見です。われわれの頃はこんな講習を受ける機会などなかった、見よう見まねの研修で、指導医は叱ることはあっても教えてくれなかった、質問しても「見て覚えろ」と言われた、といった具合です。指導医の発言に嘘はありません。小生も指導医に系統だった教育を受けた記憶は希薄ですし、そもそも研修プログラムそのものが存在していませんでしたから。
同じくらい聞こえてくるのは、「研修医をどう指導したらいいのかわからない」「研修医が何を考えているのかよくわからない」「問題行動をとる研修医にどう接したらよいのか」といった、いわば研修そのものについての悩みです。系統だった指導を受けてこなかった指導医たちには、教育や指導のノウハウがありません。そもそも後輩を指導するという文化がありません。そんな中で「よき教育者たれ」と期待されることへの戸惑いだと言ってもよいでしょう。
この悩みが嵩じて、臨床研修制度そのものに背を向けてしまう指導医もいないわけではありません。しかしながらほとんどの指導医は、後進の成長を助けるために、期待される役割を果たそうと悩んでいるのです。
いくつになっても、成長するためにもがき続ける。指導医も研修医もそこは変わりません。そう思えば、いまいちだと思っていた指導医の姿にも、共感ができるかもしれません。
次回はもう少し具体的に、指導医が研修医に対して感じていることをお伝えしましょう。それまでくれぐれも夏バテにご注意くださいな。では、また。