2024年08月29日
こじょんのび便り!第13号
研修医2年目のぼやき
「穴は埋まった?」
こう聞いてくるのは、循環器内科医F先生である。
昨年度は心の穴(いろいろあった)、肺の穴(気胸)、タイヤの穴(パンク)など、数々の「穴」に悩まされた。冬には1か月間で新型コロナウイルスとインフルエンザに罹患し、ボロボロになりながら最速で有給を消化した。まさに、”ツイてない”一年だった。
そんな私は、常にぼーっと生きていたい人間だ。一日中家にいるのは苦ではなく、コロナ禍でのステイホームも何のストレスもなく過ごせた。虚空を見つめ、何を考えているのかわからないまま、気づけば数時間が過ぎていることもよくある。そんな私の趣味は、ぼーっと音楽を聴くことである。誰も知らないような素敵な曲を見つけては、小さな優越感に浸っている。今の時代は“サブスク”が流行しており、これさえあれば、簡単に時代も国も飛び越えて、あらゆる曲にアクセスできる。便利なものだ。しかし、一度深い音楽の海に入るとなかなか抜け出せない。新たな音楽を知れば知るほど、一生かけても絶対に聴き切ることはできないだろうと感じる。医学の海も、同じなのだろうか。
ぼーっとしていたいが、現実はそう甘くない。年明けからの9週間、救急外来の研修医は私1人だけだった。常に忙しさに追われ、ぼーっとする余裕なんて全くなかった。能力が圧倒的に足りず、自分のした決断で後悔することが何度もあった。このときに感じた「穴」は、自分の経験不足や知識の足りなさだった。真冬の救急外来で、何をどうすれば良いのか分からないまま、必死に「穴」を埋めようとしていた。
昨年度はツライことが多かった。それでも周りのサポートに支えられ、なんとかやってきた。
4月に後輩を迎え入れてから、早くも5ヶ月が経った(執筆時点)。今年度はどうだろうか。
後輩たちのエネルギーには驚かされる。いつも元気で明るく、研修医室の雰囲気を存分に作っている。電子カルテは後輩でほぼ埋められ、キーボードを叩く音が絶え間なく響いている。「先生、これってどうするんですか?」「このケースって、どのようなことを考えたらいいんでしょうか?」などと質問攻めされることもしばしば。なんとか答えられたり、答えられなかったり。わからないときは後輩と一緒に調べる。答えた後は「言ったこと間違ってなかったかな…」と必死に調べて情報の裏付けをする。冷や汗をかきながらも、とても勉強になる瞬間だ。後輩に尻を叩かれている気分である。
そんなことをしていると、病棟看護師から電話がかかってくる。大抵は私の不手際で病棟が困っている内容だ。なんとか対応すると、今度は上級医からの着信が鳴り、新たな仕事が舞い込んでくる。ぼーっとしている暇はどこにもない。
ふと研修医室の壁に目を向けると、食事会や旅行の記念写真がズラリと並んでいる。登場人物のほとんどが研修医1年目だ。そう、今の主役は圧倒的に1年目なのだ。後輩から飲みや食事に誘われることも多い。後輩たちのおもしろおかしい話で笑わせてもらい、先輩としてお金を多く払うことしかできない自分に気づく。これで良いのだと思う自分もいるが、もう少し存在感を上げていかないと。
ぼーっとする暇なんてない。
それでも、こんな日々を心から楽しめる自分がいる。もともとの性格を考えることもあるが、きっとこれで良いのだろう。周りに感謝しながら、忙しい日々を過ごしていきたいと思う。
つい先日は初めての同期旅行をした。今年度は今のところ順調だ。
・・・
「穴は埋まってきました。」
順調なときほど、落とし穴にハマるものである。
p.s.
双六診療所(標高2,600m)にボランティアに行ってきました。登山客の高山病やこむら返り、靴擦れなど、ふもとの診療ではできない貴重な経験をしてきました。