2012年07月10日
カルテを書こう:その1
昨日は日曜日。病棟の当番だったので、入院患者さんの回診をした。早朝から病棟を一周し、診察をして、所見や病状、治療方針をカルテに書く。月に二、三回の、とても貴重な時間である。研修医の受け持ち患者さんを自分なりに診察できるし、研修医が何を考えているかを知ることができるからである。
そもそも、カルテとは何か。医師法では医師は患者を診察したら、所見を遅滞なく(すなわち、できるだけ速やかに)診療録に記載すべし、と決めている。カルテを書くことは、法で定められた医師の義務なのである。
しかし、それはカルテを書くことの消極的な理由である。カルテにはほかにもさまざまな顔がある。他のスタッフと情報を共有し、互いの観察や考察を共有する場所になる。患者さんが何を語り、自分がどんな診療を行ったかの貴重な記録として、自分を守ってくれる唯一の証となる(ちなみに、患者側からカルテの開示を求められたら、基本的に断ることはできないのが今日の考え方である)。さまざまな学術研究のデータベースとなる。
これらに加えて特に研修医にとって大切なことは、カルテをきちんと書くことで、臨床医として必要な考え方のフォーマットが頭の中に作られるということである。
今はどうだか知らないが、小生が学生時代、臨床実習ではどの科でも数名の患者を受け持ち、医師と同じ書式のカルテを渡された。そのカルテを全部自分の記載で埋め、日々の経過記録を書き、実習終了時には実習期間のサマリーを作って、カルテともども提出した。また、CPCやカンファレンスの当番に当たると、対象症例のカルテやらレントゲンフィルムやらを山のように渡され、プレゼンのための資料を作った。
言うまでもなく、大変な作業であった。何を書いたらいいのかわからない。どう書いたらいいのかわからない。専門用語の意味がわからない。そもそもカルテが読めない(!)。ベッドサイドにいる時間よりもはるかに長い時間を蛍光灯の下で過ごしたものの、全く筆が進まず、カップラーメンをすすりながら半泣きで書いていたものである。最初は独力ではいかんともし難く、友人やレジデントに教わったりして、何とか締切に間に合わせていたものである(まがりなりにも医者をやっていられるのは皆さんのおかげです。お世話になりました)。
誰でもスタートはそんなものであろう。ここでくじけずに続けることが大切である。不思議なもので、我慢してやっているうちに、だんだん書けるようになってくる。知識が増えたり、先輩医師の達筆を読めるようになるのもさることながら(笑)、集めた情報を整理する方法に頭が慣れてくることが大きかったと思う。その方法論を学問的にまとめたのがPOMR(問題指向型診療記録)である。
学生時代にトレーニングをしていたおかげで、医者になってからはカルテを書くのにあまり苦労せずに済んだ。もっとも中だるみの五年目の一日、ある指導医に「もっとカルテをきちんと書きなさい」とチェックを入れられ、負けん気に火がついたことがあった。それ以後ますますカルテを書くことに心を砕き、診療情報管理士の資格まで取ったのである。
さて、当院研修医の診療録である。良い点もある。しかしながらツッコミどころが満載である。たとえば…まだまだ長い話になりそうなので、次回に続きます。