2013年03月14日
見学に行こう
三月の声を聞いたら、急に春めいてきた。今朝は当直明けである。温かい雨が黄砂を洗ってくれているようである。小生くらいの年輩になると当直は楽ではない。が、ふだんの専門分野の診療では経験できない病態に遭遇し、引き出しが増えるのはありがたく、楽しいものである。
さて、春休みで学生さんが見学に訪れる季節である。当院にもすでに数名が様子を見に来てくれた。ありがたいことである。というわけで、今回は病院見学にまつわる話をしてみたい。
研修医のアンケートを見ると、研修病院を決めた理由として、先輩や仲間の意見を参考にしたという意見が多い。おのれの進路を選択する切所(司馬遼太郎さんがよく使う言葉で、ここ一番の大事な場面の意味)にあたり、自分ひとりでは決められない心理が伺えて興味深い。
短時間の見学でどれほどのことがわかるかという意見はあるだろうが、意中の病院を自分自身で確かめておくことは大切である。初期臨床研修の目的や内容は厚労省の指針に従わざるを得ないので、どの病院も大差はない。とすれば、その病院の雰囲気(atmosphere)がしっくりくるか、指導医をはじめ、病院がどれだけ一所懸命に研修に向き合っているかが、二年間の成果を決めることになるだろう。
だからこそ、自分で見て、聞いて、自分で決めるべきである。合う合わないは人それぞれだし、恋人を選ぶのを人任せにする者はいない。自分で選ばないと、研修の途中で壁に当たったとき、「○○さんに勧められたから」とか、「自分は本当は△△病院に行きたかった」などと言いわけをしてしまう。これはNGである。
さて、せっかく見学に行っても、先方の言いなりに漫然と過ごしたのではもったいない。見学の成果を挙げるには、いくつかの準備というか、ヒントがある。
まず、自分がその病院の何を確かめようとしているのかを、事前にはっきりさせておくおくことである。「先輩研修医の様子を見たい」という声をよく聞くが、「研修医に指導医が頻繁に声をかけているか」「研修医が指導医やコメディカルに遠慮せず質問できているか」といった、より具体的な課題設定の方がよい。
次に、研修医に一日ついて動いて回ることである。みなさんにとって、彼らは明日のわが身であると同時に、その病院の研修風土を映しだす鏡である。先輩研修医が暇そうにしていたり、ため口をたたいていたりしているようなら、その病院に多くは期待できないだろう。
加えて、その病院の指導医の中からこれはと思う人を選び、一日くっついてみるとよい。その医師がプログラム責任者ならなお良いだろう。彼らの発言や行動の中に、その病院の臨床研修に対するポリシーが必ず滲み出るものである。研修を大切にしているなら、「今忙しいからあとで」などとは口が裂けても言うまい。みなさんに頻繁に声をかけ、質問に耳をかたむけ、真摯に答えてくれる病院の方が信用できるのは言うまでもない。
最後に、病院のスタッフがきびきびと動き、話し、笑顔でいるかを見てほしい。医療も教育も、結局は人がやるものであり、施設のネームバリューや規模、システムでその質が決まるものではない。活気のない病院では、それ相応の研修しか受けられないと思った方が良い。
もちろん、みなさんが積極的でなければならない。自分の人生なのだから、待っているだけでは駄目だ。「うるさい奴だな」と思われるぐらい図々しくてもよいのである。その病院で研修することになれば、その態度がスタッフとの間を取り持つ話題になるだろうし、その病院を選ばなくても、旅の恥はかき捨てである。損はないのである。