2025年05月09日
お知らせ
脾臓を摘出した患者さんとご家族へ
脾臓を摘出した患者さんとご家族へ脾臓は人体の免疫系において重要な役割を担っています。一方で胃、膵臓の手術や、外傷によって脾臓が損傷した際に、脾臓を摘出されることがあります。脾臓を摘出したことによって感染に対する免疫能が低下し、脾摘後重症感染症 (overwhelming postsplenectomy infection; OPSI)の危険性が高くなることが知られています。典型的なOPSIは、突然の吐き気、嘔吐、腹痛、発熱などで始まり、数時間のうちに昏睡状態となり、血圧が低下して、ときに死亡することがあります。脾臓を摘出した患者さんの約5%がOPSIを発症し、その死亡率は50~80%と報告されています。多くは脾臓を摘出してから2年以内に発症しますが、これまでの報告では、早ければ術後13日に、遅ければ術後59年も経って発症しています。OPSIの原因になる細菌として、肺炎球菌 (48%), 髄膜炎菌 (12%), 大腸菌 (11%), インフルエンザ菌 (8%)などがあります。※冬に流行するインフルエンザウイルスとインフルエンザ菌は異なります。
OPSIの危険性を考えれば、その予防が重要です。予防策として、ワクチン接種が推奨されます。本邦では脾臓摘出後のワクチンに関する明確なガイドラインがなく、欧米のガイドラインなども参考にすると、肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌に対するワクチン接種が推奨されます。
それぞれの細菌に対するワクチンの種類
・肺炎球菌ワクチン
ニューモバックス®
バクニュバンス®
・インフルエンザ菌b型ワクチン
アクトヒブ®
・髄膜炎菌ワクチン
メンクアッドフィ®
ただし、脾臓摘出後の重症感染症予防として保険が適応されているワクチンは、肺炎球菌に対するニューモバックス®だけです。それ以外は任意接種で、またすべてを一度に接種できないため、何度か通院が必要になりますが、OPSIの重症度を考慮して、これらのワクチンの接種をお勧めしています。さらにニューモバックス®とメンクアッドフィ®については、5年経過すると抗体価が低下するので、5年ごとの追加接種が推奨されています。
脾臓を摘出された場合、ご本人だけではなく、ご家族をはじめ周囲の人も、脾摘後重症感染症(OPSI)についての認識、長期にわたるワクチン接種の重要性についての理解をもつことが大切です。ずいぶん昔に脾臓を取ったけどワクチンを打っていない、もしくはワクチンを打ったか分からない、など気になることがあれば、いつでも当院までご相談ください。
相談先:上越総合病院 外科